消化器外科の高度な専門医療とかかりつけ医(主治医)機能の両立を目指す
1998.01.01
患者本位の医療を実扶するため大学病院を辞めて開業
---開業して4年ほどということですが、まず開業された理由からお聞かせ願えませんか。---
熊本大の医局にずっといたのですが、大学病院や公的病院といった大規模病院では、患者さん本位の医療が実践しにくい。そして、それを誰も変えようとしない。自分一人が一生懸命でも、コ・メディカルが動いてくれない。それでいて自動的に昇給だけは行われる---。こういう状況で時間的拘束を受けるぐらいなら、自分で開業して理想とする医療をやってみたかったのです。 医師と患者の関係はお見合いみたいなもので、技術以外に、信頼関係が絶対に必要なのです。そこで、消化器外科の技術に関しては絶対に公的にも負けない、それでなおかつ、かかりつけ医の機能も持つ、といった診療所をつくりたかったのです。
大腸ファイバーには絶対の自信ガン患者も「逃げない」
---消化器外科を専門としておられますが、現在の患者数や手術件数はどのくらいですか?---
外来は1日100人ぐらいです。 手術は月に10件近く行っています。痔の手術が多いですが、ガンの手術も行います。医師会のオープン病院でも執刀しますが、このごろは大きな手術も当院でするようになってきました。去年、大学の後輩が副院長として入職してくれて、二人でやっているのですが、彼も最初は、ガンの患者さんをみつけても、その後、公的病院へ逃げて行かないことに驚いていました。 内視鏡的治療も、今後一層すすめたいと思っています。「痛くない、きつくない」検査、手術ということを常に考えています。内視鏡検査・手術では、女性への配慮も大切です。公的病院などでは、検査が終わった女性の患者さんの側を、男性の患者さんが通ったりする。そういうことは絶対に避けたいと思いまして、男女を分けるのはもとより、3つある診察室は、お互いに音が漏れないようにして、少しでもプライバシーを守っています。
---療養環境にも、かなり気を配っておられますね。---
12床すべて個室です。いっでもお湯がつかえるようになっていますし、冷暖房も自由に調節できるなど、ビジネスホテルなみの施設です。建物だけでなく、スタッフや治療内容も含めて、サービス業に徹しようという気持ちで始めました。 今は、本当に自分の理想を追求しているところですから、楽しいですよ。
---でも、最初は苦労されたのではないですか。---
そうですね。旧市街に開業しましたので、周囲には公的な大病院や古くからの診療所がたくさんあります。かなり苦労したことは確かです。 でも、「あそこなら内視鏡もラク」とか「安心してかかれる」という評判がロコミで広がり、次第に患者さんが付いてきてくれるようになりました。 人間ドックも、全大腸をファイバーにてほぼ5分で到達し、観察することを中心に据えています。もし痛みがひどければ二度と来てくれないでしょう。また流れ作業的なドック検査をせず、診療所ならではのアットホームなアナログ的雰囲気にもしています。
---入院のほうですが、平均在院日数は?---
10日前後です。稼働率を上げるために、たとえば盲腸の患者さんで10日の入院で済むところを、2週間にも引き延ばすようなケースもあると聞きますが、うちはそういうことは絶対にしない、と開業当初から公言しています。かなり我慢した時もありましたが、そういう努力は患者さんに伝わりますね。やはり口コミで、「あそこは治ったらきちんと退院させてくれる」という評判が定着しているようです。
病床数ではなく機能を基準に病院・診療所を区分してほしい
---ベッドを増やす予定は?---
それはないです。14床以上では自分の目の届く範囲を越えてしまいます。ただ、満床の時の急患対応のための予備ベッドは、欲しいと考えています。 外来機能や診療機能については、どんどん発展させていきたいと思っています。現在、MRIの導入を検討しているところです。
---ただ、今、有床診のポジションはあいまいですよね。厚生省は入院機能は病院、外来機能は診療所というように峻別しようとしていますが・・・・・。---
そもそも病床数で、病院と診療所に分けることがおかしい。ベッドを持った地域密着型の医療施設は絶対に必要なんです。病床数ではなく、高機能か否かで区分してほしいですね。
---医師だけでなく、他のスタッフも一般の診療所に比べると揃えておられますね。---
看護婦は17名で、事務のスタッフその他を入れると総勢で30名ほどになります。婦長が30代で、ほとんどが20代です。経営面では「事務長」を専任で置き、私は資金繰りなど重要な部分のチェック以外は、医療に専念できるようにしています。 人件費率は30%ほどです。意外と低いのですが、準公務員並みの給与を支給しています。大腸ファイバーや手術などの技術料が高いことで助かっている部分がありますね。いずれにせよ、「赤ひげ」ではやっていけないことは理解してほしいです。現状では個室でも室料差額が徴収できません。「施設使用料」という形で1日1,000円、冷蔵庫やテレビを備えた一番高い部屋でも3,000円です。
---医薬分業はされているのですか?---
していません。デッドストックの発生など在庫管理は大変ですが、患者さんの利便性を考えてのことです。個々の患者さんの生活背景を把握していない薬局では、本当に実のある服薬指導はできないのではないでしょうか。高機能を評価してくれるのであれば、診療所でも薬剤師を雇って、診療報酬で手当てしてほしいですね。
---そのほか、今後のご予定はありますか。---
開業5周年をめどに、医療法人化と外来機能・アメニティ向上のために増改築を予定しています。