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第33回保団連夏期セミナーに参加して
2003.08.05
さる7月12日~13日の二日間に渡って、東京にて第33回保団連夏期セミナーが開催されました。2回目の参加となりましたが、学習の機会を得ましたので、ご報告させて頂きます。
今回は、政府の医療構造改革と本年1月に発表されました、日本経団連のいわゆる奥田ビジョンへの対抗軸として、保団連も2025年(実際には20×0年となっていますが)を目指した、壮大な医療ビジョンの創設に関係するセミナーと討論会・分科会でありました。
詳細資料は、事務局にありますので、お問い合わせ下さい。今後、毎年改正されていく予定のようで、このようなビジョンを骨格に保団連が今後、政府の社会保障後退に対抗していくには、非常に良い方策だと思われました。
今回の目玉は、2日目の特別講演「社会保障の目的・本質とその日本的特異性」です。演者は、中央大学経済学部教授で社会保障論をご専門にされている工藤恒夫先生でした。演目に特異性とあるのは、日本の社会保障制度が社会保障論からは大きくはずれており、一般論を踏まえていない非常識な制度であるという点から、特殊性ではなく特異的な制度であると断言されておりました。と言うのも、国公立系の大学には、社会保障論の講座を持つ大学は一校もなく、わずかに数校の私立大学にあるのみで、従って社会保障の専門科など、今の役人の中には一人も育っていない状態で、素人の集団と言ってもよく、以下のような驚くべき状態にあると言うことでした。
表1をご覧下さい。被保険者の拠出(自助という表現をされています。)は、日本が高く、それに対して諸外国の社会的扶養は平均で74%ですが、日本のそれは年々下げられ、1990年代には55.9%まで落ち込んでおります。
また、表2を見て頂くと、年々国民年金・国民健康保険の国庫負担割合は下げられてきておりますが、厚生年金だけは96年に少し下がっていますが、2000年には14%にまで復活しており、国保が3兆5000億円の補助に対し、本来国庫補助を受けるべきでない厚生年金対象者に、3兆7000億円も補助が出ているという事でした。
また、図1で示すように、諸外国に比し、社会保障給付費が非常に少ないことがわかります。年金で言うと、一番優遇を受けているのが、厚生年金基金で、これらは公務員を対象にしていますが、月の支給額が現在約21万円、その次が、厚生年金で、17万円であるのに対し、国民年金は、わずか4.7万円という低さです。日本の国民年金のように40年も払い続けてやっと、年金受給資格が出来るような国はどこにもなく、ほとんどが受給資格年数は10年位だそうです。また、所得のない20才以上の学生からも年金の掛け金を徴収する国もどこにもないと言うことでした。
次ぎに、健康保険制度を見てみますと、やはり、対象者500万人に対する組合健保や共済健保が一番優遇されており、3割負担になったとはいえ、傷病手当金制度もありますし、各種の付加給付金制度があります。中間層に、政府管掌保険(対象者3160万人)があります。最下層に冷遇され、しかも一番対象者の多い(4700万人)国民健康保険があると言うことで、年金も健康保険も分断されている状態です。
図2で示しますように1961年には、国保の多くを農林水産業者が占めていましたが、1992年を見ますと、無職・店員などの被用者が増えています。前者の中には、諸外国では組合健保で終身みてもらっている退職者の大半が含まれ、後者にはパート労働者(これも本来、組合健保で見るべき対象者)が入っているという、やはり、工藤先生の言われる、非常識きわまりない状態が存在するという事を実感として感じました。
このような不公平な三層構造に分断された社会保障制度を、マスコミも、もちろん政府も国民に向けて、はっきりと話したことはないと思われます。奥田ビジョンに言う、何が「自助努力の世界にしなければならない」でしょうか。安心して、子供が産め、働ける社会保障をせめて先進諸外国並の制度に確立する事こそ、この不況を抜けだし、衰退する国力を増強させる手段ではないのかと感じ、皆さまにお知らせする次第です。
熊本保険医新聞 2003年8月5日号
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