医療法人ウッドメッド会 森永上野 胃・腸・肛門科

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私のIT革命と2.5人称の医療 ~懺悔とメールの勧め~

2001.03.01

 今や、急速なIT革命の推進で、IT、ITと唱えれば、某国の総理大臣にさえなれる時代となった。私も遅巻きながら、4年前にインターネットのかじりを始めた一人である。しかし、その頃は、アクセスも遅く、メールもやっていなかったし、こんなにもかぶれるようになるとは思いもしなかった。その頃は、インターネットの走りで、あまり必要性も感じていなかったし、何か医療に利用できないものかと実験段階であった。

 それが、昨年の政府のIT合唱の頃から、熊本のDr.の仲間から、メーリングリストなるものに参加を勧められた。メーリングリスト(ML)とは、特定の話題に関心のある人々の電子メール・アドレスを記録したデータベースを使ったクローズドな仮想合同会議場である。何事も経験と思い入ったのが昨年2月。ところが、これがおもしろい。普段忙しくて、なかなか話せぬ方々と色んなことを話せる。知り合いにもすぐなれる。ついに今や、必要欠くべからざる道具となっている。そのいくつかを紹介しよう。

 Dr-form

 最初に入ったMLで、一本指打法からブラインドタッチまで、地元熊本のキーボードが使える先生達のリスト。現在、開業医を中心として、勤務医、薬剤師など200名弱にまでなっている。一番身近で、一番情報交換もしているMLである。時々は、オフ会と称して、アナログ交流の親睦会。これがまた、初対面というのにMLで気心が知れ、まるで同窓会のノリなのである。

 Localmtret(鹿児島地域医療研究会)

 主に鹿児島大学医学部出身の方が核となり作られたMLであるが、今や全国区。その活動の広さ、活発さは、当代随一。素晴らしい先生方も沢山おられ、特に離島が多いため遠隔地医療相談にも貢献され、頭の下がる先生も多い。

 C-minc(中央区医療情報ML)

 東京都中央区だけのつもりが、ネットはすぐに区域を越え、国境を越える。先のLocalmtretの会員も多数入会されていらっしゃるが、最大の違いは、医学生、弁護士、ジャーナリスト、臨床検査技師などの方々も会員で、広く色んな意見が聞ける全国区ML。

 Himedaruma

 日本医師会や各都道府県医師会、郡市区医師会の主に情報担当の先生方や事務局の方を中心とするMLで、現在、約800名の方が参加しており、地区医師会の情報化についての相談やノウハウなどが話しあわれているが、何でもありの話題も多い。全国医療情報システム連絡協議会第12回定例議会が松山であり、それにちなんで愛媛の民芸品である「姫だるま」から付けられている。

 以上が医療関係で私が入会しているMLである。今や私の日課は、診療を行うことと同じように、MLを開き、色んな話題を見、意見を述べる。時にわからぬ疾患や保険審査の相談をすると、その道の専門家が答えてくれる。また、趣味の話題やゴルフ・親睦会(オフ会)の打ち合わせにも使う。先日、熊本有床診療所協議会の設立総会が行われたが、より強い団結力をつけることが必要なことを痛感し、MLを利用し、入会率が少しでも高まればとも思っている。

 さて、ここまで話しても、一向に2.5人称の医療が出てこないと思いの諸氏も多かろう。この名称の名付け親は、かの医療ジャーナリストの柳田邦男氏である。
さる1月末に、熊大第二外科小川道雄教授の主催で消化器外科学会教育集会があった。そのサテライトシンポジウムとして「医療事故とリスクマネージメント」のテーマで盛大に5時間にわたり討論が交わされた。
 日頃、私も相手の立場に立ってとか、自分がかかったつもりで医療を、とか事あるごとに言ってきたつもりであったが、この名称には目から鱗であった。外科医なら、特にわかることであるが、2人称の身内の手術を自分が執刀することはまずない、3人称で出来る腕の立つ信頼できる仲間にお願いする。しかし、気持ちは2人称でありたい。そういうことで、出来た造語である。
 さて、今の自分は2.5人称の医療がやれているであろうか。取って付けたような、患者様呼ばわりはしていないが、常時ネット接続の便利さの中、つい診療中も患者さんを待たせて、パソコンに見入ってしまうことも多々ある。しかし、昨年のML参加前に比べて、格段に情報収集能力、情報発信力、問題解決力が早くなっているのも確かだ。そう思うと、有意義に動いているのだが・・・。
 さて、もうすぐそこに電子カルテの時代がやってこようとしている。それに、いち早くのり、経費節減、待ち時間の短縮、カルテ庫からの解放、患者さんの丁寧な説明、レセプトチェックの迅速化につなげることが、可能となっていくためにも、今の状況を壊したくはない。看護婦や医療事務にも、インターネットへ関心を持ってもらい、ワープロやパソコンを文房具のように使ってもらおうと、ノートブックパソコンも2台買ったが、私のパソコンオタク振りを見て、貸し出しが少ないようだ。どうも、当院では、2.5人称の医療をやるために、IT以前に職員とのアナログの交流が必要なようだ。自分もネット病にかかっているのか・・。
 そして、まだMLなど知りもしない諸氏には、「熊本の中の蛙」とならないためにも、パソコンの勧め、MLへの参加を、病気にならない程度にお勧めしたい。
             森都医報 2001.3月号より