医療法人ウッドメッド会 森永上野 胃・腸・肛門科

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技術偏重で人を思う気持ちが見えない医療が多い

1998.04.01

 巷に「医者まかせにしない本」とか、「医者が選んだ良い病院」等という本がズラリと並んでいるのを見るにつけ、受診者たる一般の方々が、如何に、その手の情報を欲していらっしゃるかが良くわかる。私も、胃腸肛門科を専門とする有床診を開業して5年を迎えることとなった。今でこそ、サービス業云々と言われる時代となっては来ているが、実地医家となって、本当に良い医師、良き医療機関の少なさを痛感する。前述した、医療機関ガイドブックとて、裏読みすると、医師会が発行していれば、医師会員全員を載せようとするし、ある大学教授が編纂していれば、その息のかかったメンバーで占められているだけということが多く、自分の専門科たる所をみても、そのたぐいであるから、あてにならない。

 もう10年近く前であるがある市立総合病院に勤務していた頃、外来にきた患者さんに「様付け」をして呼び出しをかけることとなった。なんとも、外来ナースがマイクで呼ぶ姿のぎこちないことと、取ってつけたような、その姿勢に苦笑したものである。もちろん、その趣旨はわからなくもない。安上がりではあったが、根本的なその施設の医療コンセプトがないために、杓子定規の診療、コ・メディカルの対応は変わらず、これじゃダメだ、と痛感したものである。

 Customers Satisfaction が医療分野でも叫ばれて久しいが、今からの医療機関は、民間、公的を問わず、きちっとした医療を行うのは当たり前、加えて如何に満足感を作っていくかと言うことも大事な要件となってきている。事態は、一民間診療所の院長が言っていることだけでは済まされない時代である。医療ビッグバンを間近に控え、そのような、まだ「親方日の丸」的発想をされているようでは、話にならぬ。自分の身内を見るように、親身に診る必要がある。人を思う気持ちが大切である。所帯が大きくなれば、動きも悪くなりがちではあるが、どこに所属しようとも、やっているのは人間であるし、診られる側も人間なのである。こころのこもった対応が、その原点であろうと考える。ただ、ジュースを買うだけなら、自動販売機で十分だ。

 とかく、若い医師ほど、技術偏重の意識を持つものであるが、技術+心の教育も大事であろう。ベストセラーとなった『患者よ、癌と闘うな』を書かれた慶応大学放射線科の近藤先生も、現在の特に公的医療機関の技術偏重に警鐘を鳴らされているようで、少々インパクトの強いタイトルではあったが、ガンもどきが、あろうがなかろうが、そのへんが争点ではないと私は思う。

 ガンは治ったが、患者のQOLは著しく低下し、何をやったのかわからない、ではダメなのである。また、外科医として、切りっぱなしもいただけない。

 先日も、38歳の男性が、いきなり癌性腹膜炎の状態で転がり込んできた。聞けば、公的医療機関で2年前に手術はされていた。早速、どうなっているのかと、当の外科に聞けば、執刀医は開業した。主治医は、転勤したので詳細は分からないが、手術所見を聞けば、明らかに再発してもおかしくない状態の患者であった。であれば、なぜきちっとしたfollow up をやっていなかったのか。後任へ引き継いでいなかったのか。

 この患者は、当院にて、一週間後に安らかに息を引き取られたことが、せめてもの幸いであった。結構、このようなことを、この5年間でも経験してきた。自分の身内であれば、どうしていたであろうか。

 また、ある時、右心不全の高齢者が来られた。これは集中管理が必要と思い、ある機関に救急転送した。転送後も気にはなっていたのだが、なかなか訪問する機会がなかった。近所の方で、当院をかかりつけとされている方が受診された際、「○×さんな、□△病院に転院しとんなさるですね」とのこと。どうして主治医は、専門外とは言え、電話一本もよこさなかったのかと思った次第であった。新築移転したばかりの施設で、「断らない医療」を叫んでいた病院であったが、今後のここへのやめだな、と思った次第である。

 当院では、人間ドックも行っている。その研修も兼ね、職員に前述の機関に一泊ドック体験をさせた。驚いたことに、身長、体重、血圧みな自動計測で、出てくる記録紙を持たされたプレートに挟み込み、流れ作業よろしく、番号どおりの部屋へ移動させられたという。

 どれをとっても、そこには心が全く見えてこない。本当に人を思う気持ちが見えないのである。こう叫んでも、改革をやろうとしても、公的機関の院長の給料が下がるわけでもなく、依然として、患者さんのほうを向くわけではなく、来週の議会答弁書に眼を向けているのが、せきの山であるのがくやしい。

フェイズ3 1998年4月号 

     「自治体病院のペレストロイカ」より