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いまこそ必要な医療現場からの発言 ~持続可能な医療体制のために~ (3)
2001.10.14
[ 質 問]
前岡山県医師会長 永山克巳 すばらしいお話をいただきまして、平素からのフラストレーションが拭い去られたような気がいたします。日頃から、日医総研は、大変、良いお仕事をしておられる。沢山のワーキング・ペーパ、報告書を出していらっしゃいます。しかし問題は、これを医療関係にだけ配っているということです。国民は知らない。マスコミも取り上げてくれない。今日伺ったようなお話を、日常の臨床で患者さんに、医療の実状はこうなんですよと説明していきたいと思います。しかし、患者さんは、全体から言えばマイナリティですから、もっと広く、国民全体に、医療はこうなのだ、こうあるべきだと言うことの理解を求めなければいけません。それには、残念ながらマスコミはそっぽを向いている。更に、また、マスコミが、どうして、私たちから言えば偏った報道ばかりするのか、その辺、いかがでしょうか。一つお訊ねしたいと思います。もう一つは、日医が、日医総研から出た結論を、積極的に国民に訴えるような手段を持っていただきたい。これは以前から主張して、日医の会長にも申し上げたのですが、出版能力を持って、どんどん、日医シリーズを、本屋に並べていく形をとっていただければ、多少は、私たちの言うことも国民に伝わり、風向きも変わってくるのではないかと思います。国会議員の先生方に、私たちの主張を訴えますと、皆、一応は分かってくださるのです。しかし、それを行動に起こしてくださらない。これは、やはり、医療に対する、あるいは医師会に対する逆風が吹いているからで、この風向きを変えてやらなければ、国会議員も、それぞれのお立場がありますから、そうそう日医の言うことばかりを主張できないのではないか。風向きを変える努力を、勿論、私たちもですが、日医や日医総研にお願いしたいと思います。
演 者 貴重なアドバイス有り難うございます。先生のご指摘通り、内弁慶するのではなく、出版機能、あるいは国民の目に触れるように、広報活動を真剣に考えて行きたいと思います。ただ、日医総研の場合、現時点では、日医の内部組織でして、会長、あるいは執行部から、諮問された内容について研究をするという側面と、研究員自身、これが日本の医療に役に立つと信じて、自ら提案する研究テーマとの両面があり、どちらの場合も、日医総研が独自に発表するよりは、日医の執行部、理事の方々を通して発表する形をとっています。その方が、先生方の理解も得られますし、マスコミから、あれは日医総研の勝手な独りよがりだと言われかねないので、1枚フィルターがかかったように見えるかもしれませんが、今のやり方が、非常に妥当な方法ではないかと感じています。その方が、マスコミに対しても、一番アピール力が強いのではないかと思います。仮に、日医総研が独自にマスコミとやり合い始めると、日医と日医総研の言っていることは、少しずれているではないかと言われますし、更に、両者の言い分が180度仮に違うと、余計に不信感を助長するので、マスコミについては、今のやり方を進めていこうかなと考えています。ただ、日医と日医総研両方から、きちんとマスコミに言っても、取り上げてくれないのは、本当に悩みの深いところです。幾つかの地方の先生は、「マスコミは、スポンサーに強いことが言えないから、日医、もスポンサーになって、全面広告を毎週、毎週出せ。」と言われるのですが、我田引水のPR記事を毎週載せても、口さがない議員とかマスコミから、日医は、これだけの潤沢な予算があるのだったら、もっと効率的に使えとか、文句は幾らでもつけられるだろうと思います。テレビやラジオ番組についても、日医の会長が出たり、毎週日医から提供していますが、ここでも、ポリティカルな部分は、はっきりと言いにくいので、大変悩ましいところです。日本の国民性なのか、世界中そうなのか、よく分かりませんが、医師は、幾つかの難しいハードルを越えて医師免許をとり、患者さんからは先生先生と言われて、具体的なところでは尊敬されています。そういうのを端から見るにつけ、他の産業の方々は、ある意味でジェラシーを感じているのではないか。これは、一種、インテリに対する民衆のジェラシーとも言えます。中国で起こった、4人組とか文化大革命というのも、結局は、インテリ追放です。民衆的なところになると、どの国もそうですが、インテリ追放。そういう意味では、地域の先生方が、一生懸命やっておられれば、おられるほど、民衆には理解できなくなり、ジェラシーが渦巻いてくるのではないか。一人一人の患者さんと医者の立場では、お互いに良好な関係を持てるのですが、一般論になったときには、とにかく医師会は、いかん。悪の権化だ。何であれだけ稼いでいるのにと、根も葉もない話に持っていかれてしまいます。歴史的に見ると、そういう国々で大失敗したあと、10年後か、10数年後に、国力が疲弊して、医療レベルが下がったとき、大変なことをしてしまったと反省するわけです。日本の医療のように、旨くいっているプロセスは、歴史的にありません。そのことを、どうやれば国民に伝えられるのか、私にも、よく分からないのです。良いアイディアがあれば、ぜひ、お教えいただきたいと思います。とりあえずは、マスコミや政府に、色々な方面から倦まず弛まず働きかけていこうかなと考えております
岡山市医師会理事 丹治康浩 先生のお話は、非常に分かりやすくて、実にクリアカットです。マスコミの番組に出るときは、医師会長などが出ても駄目です。石原先生ご自身が、番組に出なくてはいけません。過去のNHKなどの色々な番組で、日本医師会長が出て言うと、国民は、医師会(医師の群団)が喋っているという見方をします。むしろ、ああいうディベートの番組には、先生のようなお方が出られて、分かりやすい理論で話をされたら、国民は納得すると思うのです。マスコミは、言力、言葉の力です。マスコミ受けするには、どういう言葉で、どういう態度で、何を話しているのか表情から何からトータルな印象が重要です。ですから、医師会の長たる方は、マスコミ受けのする、理論を持った人を送り出して欲しいわけです。今、市場経済を打ち出してきていますが、これはまさにマクロですね。聞くところによると、治験だそうですから、10年やって、どういうoutcomeが出るか、やってご覧なさいと言う手もあると思います。しかし、現実には、日本はデフレで不況ですから、できればソフトランディングに行って貰いたい。その点でも、医療に対する市場経済は、いかがかなものかと思います。ミクロは結局お金がかかるから、医療費総枠制の話になるのです。これに対して、将来、重要な産業になる医療にお金をかけて、市場を広げ、雇用を増やす、このことを分かっている経済学者が、何で医療費総枠制を打ち出して、医療機関に痛みを与えるような政策を立てるのか、私も納得できません。先生の先ほど言われた、市場にどういう影響があるのか、先生がマスコミの番組に出て、直にお話ししてください。絶対に迫力があります。私は、NHKのディベートを見て、悲観しています。ああいうディベートでは国民受けはしない。今問題になっているのは、医療の質と、お金の総額の問題です。医療の質については、大いに議論すればいい。ただし、医療費の総枠を下げるのであれば、医療は、これ以上伸びないことを、理論的にきちんとディベートできるような人がテレビに出てくれないと困る。今のままでは、負けてしまいますよ。デフレになって、皆、財布を出さないわけです。私は、先生と同じく循環器内科を専門にし、市内で開業をしていますが、2年前、3年前に一部負担金が1割から2割になったとき、患者さんが本当に減りました。今回、それ以上の負担を増やすと、本日、聴衆の先生方の中には、倒産してしまわれる方がおられるではないでしょうか。笑いごとではありません。現場は、本当に苦しいのです。特に、医療費総枠制、患者さんの一部負担金等の問題は、激しく議論して欲しいです。
演 者 先生のアドバイスをしかと持ち帰り、検討させていただきたいと思います。ただ、先日の、NHK、BSディベートに、日医代表として出られた、青柳常任理事、この先生は、大変頭の切れる、良くできた方です。実際には、他のメンバー、本間さん、下村健さんが言っておられた意見に、いちいち根拠のある反論をしようと思えばできたのですが、残念ながら、司会と番組全体の雰囲気が、日本の医療を叩くという方向で、ビデオで見れば、すぐお分かりになると思いますが、青柳先生が発言しようとすると、誰かが、特に本間さんが多かったように思うのですが、遮っているのです。結局、当初予定していた説明もできず、もう一つ、あの場で、周りにいた5名の方々を、論理的に論駁してしまうと、逆に何もご存じない国民の方々は、「医師会の奴は、また煙に巻いて、だまくらかした。」と誤解されるのではないかという懸念もあったのです。大変、悩みの深いところで、やむを得ず、ああいう形に落ち着いたと、私たちは理解しております。それから、10年間だけ、市場経済で医療をやらせて見ろ、実験させて見ろという意見が他にもありまして、日医総研の研究者たちは、頭の中でシュミレーションしたのですが、医者は大変ハッピーになります。しかし、国民の何千万人かは、ボロボロになってしまうことが、はっきりしています。一旦、実行すると、今のような、よく整備された医療制度には二度と戻れないという結論に落ち着きました。やはり、国民を守っていくのが、私たちの仕事であって、中国の古典にあるように、医者を上中下と分けて、臨床現場で病気を治すのは下医であり、中医は、人そのものを直す。上医は、国を治すのだと言っております。日医総研の中で、それを引き合いに出しながら、国がどうにもならない状態にするような実験には、私たち荷担してはいけないし、そういう理論構築をして敵に、塩を送ってもいけないなと考えております。
岡山県支払基金審査委員長 亀山一郎 医療費を抑制しなければならないと、政府自ら、しばしば言うわけですが、その基になっているのは、57年、厚生省の事務次官の「医療費亡国論」という論文が、そもそもの始まりではなかろうかと思うのです。それによって行政が洗脳されるのは結構ですが、医療人までが洗脳されているのは、いささか問題があるのではないか。そのことについて、先生が明快に反論をなさいましたので、先ほどのお話を、全国の医師会に行脚されて、広くご披露いただければと思っております。スライドにも出ていましたが、吉川洋先生は、なぜ医療費をGNPの伸びの範囲内に抑えなければならないのか、理論的構築がなされていない。その理由は、大蔵省から予算を取ってくることができないということと、もう一つは、一般国民が、医療の中に多少の無駄があるのではないかという気持ちを持っているからだと論文に書いておられます。また、サービス産業の中で、ダニエル・ベルではありませんが、第5次産業として、保健・医療・福祉がGNPを支える最大の産業になるという論文を、1970年に出しています。それから30年経っているのに、わが国では、一歩も前進をしていません。これが、現在の不況、あるいは経済改革をしなければという問題にぶっつかっているのではないかと思っています。本日は、本当に貴重なお話、有り難うございました。